それからは、まさに圧巻だった。
舞台裏には薄暗い中でも
ステージ上のお芝居の様子をチェックするための
モニターが備えられているのだが・・
そのモニターの前に
出番待ちの役者陣が静かに押しかけ
舞台上で繰り広げられている
”本気の演技のぶつかり合い”を、固唾を飲んで見守っていた。
定点カメラから映し出されたモニターには
ステージ上の全体が映っているため
役者ひとりひとりは画面の中の
小さな粒のかたまりに過ぎない。
しかし、面白いのが、
音声自体はモニターから出力されないため
舞台上の役者たちのセリフや声は・・・
すぐ横の薄いセットの壁の向こう側から
ガンガン舞台裏に届いてくる。
「(舞台裏から聞いているだけでこの迫力なのだから・・実際に客席からこの舞台を見たらとんでもないことになりそうだ・・)」
そう思ったのは、きっと僕だけじゃないはずだ。
モニターを覗き込んでいる役者陣の表情は
緊張に包まれながらも、その目の奥には
「早く自分もそこに立ちたい!」
そんな光が宿っていた。
僕もみんなに負けられない。
いろいろ紆余曲折はあったけれど、ここまで何とかやってきたんだ。
なんとか”神谷椎太郎”というキャラクターをこの身体に刷り込んで来たんだ。
あとは僕もこのステージに立って、神谷椎太郎として生きるだけだ。
「よし、そろそろやな」
完全ヤンキーはそうつぶやくと
僕らの控え場所へと戻っていた。