そう、気が付けば
僕ら”遺族たち”登場のシーンも
あと数分にまで迫っていた。
「(や、やばい、やばい・・・)」
一気に緊張感が増してきた。
僕も一旦、控え場所に戻って、衣装やメイクなど
登場に必要なものがちゃんと揃っているかを、確認した。
カサハラ
「よし、OK・・・まもなく僕らの出番・・・緊張しますね・・・」
僕は、少しでもこのプレッシャーから
気を紛らわそうと完全ヤンキーにそう漏らした。
すると
完全ヤンキー
「あぁ」
とだけ、何とも手応えのない返答だった。
「(なんかいつもと様子が違うな)」
そう思い、完全ヤンキーの方をチラッと見ると・・
薄暗い中でも、はっきりと分かった。
「(こ、怖ええ・・・)」
これほどまでに怖い目をした
完全ヤンキーを見たのは初めてだった。
俺に触れるんじゃねえ。
俺に触れると怪我するぞ
そんな雰囲気を醸し出していた。
舞台監督
「遺族のみなさん、扉の前に待機をお願いします」
舞台監督が小さな声でアナウンスし
僕ら遺族たちはステージ上と繋がる扉に前に、列になって待機した。
ステージ上から容疑者役のキッカケ台詞が
聞こえた瞬間、舞台監督が扉を開けて・・・
僕ら遺族たちは、一気にステージ上になだれ込む。
すべて、場当たり通りの段取りで、行われる。
僕は遺族たちの列の最後方に並び、
その瞬間を待った。
ただなんだろう・・・
一番後ろに並んで初めて気づく。
僕の前に立つ遺族たち・・いや
“先輩の役者たち”の背中がとても大きく心強く思えた。
「(みんながいるから・・・きっと大丈夫だ・・!)」
そして
ステージ上からキッカケ台詞が聞こえた瞬間
ガラっと大きな音を立てて扉は開き
遺族たちがステージ上になだれ込む。
僕もみんなに遅れないように
勢いよくステージ上に飛び出した。
「(あれ・・?)」