“新宿の飲食街”
とはいっても・・
この日は
有名チェーン店の
“牛丼屋さん”で
ご飯をすることになった。
それぞれ、店頭の券売機で食券を買い
カウンター席に横並びで座ると・・・
さっそく出てきた
“丼もの”をがっつきながら・・
僕らは、いろいろと話すことにした。
完全ヤンキー
「今日の稽古は結局出番なかったな~」
カサハラ
「そうですね。人数も多かったですし、“代役”することもなかったですしね・・」
完全ヤンキー
「まぁ、今日くらいメインのキャストが全員集まるタイミングも取れへんのかもしれんし、ダブルキャストでじっくり稽古する時間に充てたかったのかもしれんな~」
カサハラ
「え?メインキャストが全員揃うタイミングって、あんまりないものなんですか?」
完全ヤンキー
「まぁ、さすがに本番が近くなってきたら、ちゃんと全員が揃う日も多くなるもんやけど、本番2週間前ぐらいやと、まだその辺はスケジュールによってバラつきがあるもんやな~」
カサハラ
「そうなんですね・・でも、本番まであと2週間切ってるのに、結構悠長な感じなんですね・・・僕としてはもうあんまり時間がない気がして、焦る気持ちが多くなります・・それに、“遺族たち”のシーンはまだ1度も稽古できてない訳ですし・・」
完全ヤンキー
「ケントが不安がるのも分かるで~。まぁでも、割とこういう現場も多かったりするもんやで」
カサハラ
「え、そうなんですか?!」
完全ヤンキー
「今回の現場は、俺らオーディション組が参加する前から、稽古は開始してたはずやから、たぶん全体の稽古量自体は結構多いと思うねん」
カサハラ
「あ、なるほど・・僕たち以外のキャストのみなさんは、ある程度稽古量はこなしてるって訳ですね・・」
完全ヤンキー
「まぁ、それにやっぱり、この舞台のメインは“容疑者8人”がずっと出ずっぱりで進んでいく推理会話劇やから・・主軸となる8人の稽古にはしっかりと時間を取らないとならへんねん」
カサハラ
「そりゃそうですよね・・滅多にメンバーが全員揃わないのなら、なお更ですもんね・・・」
完全ヤンキー
「でもな、俺ら“遺族たち”も、この作品を彩る重要な役割や。いくら登場する回数が少ないからってな、あの演出家が、俺らの稽古をおろそかにすることは絶対にせえへんはずや。あれほど“世界観”にこだわる演出家も珍しいからな、“遺族たち”に対する要求もきっとに大きいはずや」
カサハラ
「なるほど・・」
完全ヤンキー
「それにわざわざ、アンサンブルの“遺族たち”を決めるために、あんなに大掛かりなオーディションやって、俺ら5人を選んだんやで?」
カサハラ
「はい・・」
完全ヤンキー
「『この5人なら“遺族たち”の世界観を作り上げてくれる』って、期待して選んでくれたはずや~!」
カサハラ
「な、なるほど・・!!確かにそうですよね・・・あれだけのオーディションを経て、配役されたのが“セリフのない”いわゆるアンサンブルの“遺族たち”。
最初は、少しガッカリしましたけど・・この作品の世界観を作り上げる為に、僕らが選ばれたってことですもんね・・!」
完全ヤンキー
「せやで~!まぁ、稽古のやり方とか、いろいろクセが強い演出家やけど、あの人の元で芝居できるのは、確実に成長につながるはずや。せやから、俺も辞退せずにこの作品に参加することに決めたんや~!」
カサハラ
「え?完全ヤンキーさんも辞退を考えてたんですか?!」
完全ヤンキー
「まぁ、ヒノ君が辞退した時に一瞬だけな。でも、何でもやってみないと分からへんやろ?やらずに後で後悔するのが一番悲しいやろ?」
カサハラ
「・・そうですね!完全ヤンキーさん、残ってくれて良かったです・・!」
完全ヤンキー
「ハハハ~!まぁ、飯食って、今日は早めに帰ろな。ケントは疲れ溜まってるやろから早く帰ってゆっくり休んどき」
カサハラ
「はい・・!でも、ちゃんと“遺族たち”の出番のシーンをしっかり台本読み込んでから寝るようにします・・あの演出家の期待を裏切らないために・・!」
完全ヤンキー
「せやな~!その意気や」
そうして僕ら2人は
“丼もの”を胃袋にかき込んで
早めに帰路に就いた。
そして帰宅後、僕は
眠い目をこすりながらも
しっかりと台本と向き合って・・・
その夜は日をまたぐ前に
布団の中にもぐりこんだ。