これまでに僕が
実際に見たことがある舞台は
だいたい
中規模~大規模の劇場だった。
そして
今回の舞台はというと
分類的には、“小劇場”。
客席は、
最大で120席ほどである。
小劇場ともなると、
舞台上と客席の距離は・・
とてつもなく近くなる。
最前列に座るお客さんと
舞台上の役者との距離は
およそ1~2メートル
と言うところ・・
まさに“目の前”だ。
「(うわぁ・・・こんなお客さんの目の前でお芝居することになるのか・・・)」
想像するだけで
手汗でびちょびちょになる。
無理に化粧室で洗わなくても
真っ白なファンデーションは簡単に落ちるだろう。
とりあえず僕は、せっかくなので
最前列で、“場当たり”を見学することにした。
「(今のうちにこの距離感に慣れた方が、本番での緊張が和らぐかも・・)」
そんな狙いもあった。
舞台監督
「では、“冒頭のト書きのシーン”から場当たりを行います。容疑者役の誰かが密室の明かりのスイッチを押して、室内に明かりが点くところまでやります。照明さん、スイッチが押されるタイミングはランダムになりますので、タイミングだけ逃さないようお願いします!」
照明さん
「了解~」
「(ほほう・・・こんな感じで裏方さんの確認も行っていく訳なのだな・・)」
僕は舞台監督さんをふくめ
スタッフの皆さんの会話やアナウンスを
できる限り聞き逃さないようにと・・
しっかりと気を引き締めた。
すると
演出家
「このシーンは真っ暗闇になります。各所に“ちっこう”を貼っていますが、キャストはステージ上から落ちないよう、気を付けてください」
キャスト
「はい!」
と、演出家からのアナウンスだった。
カサハラ
「“ちっこう”って、何ですか?(ヒソヒソ)」
僕は小声で
完全ヤンキーに聞いてみた。
完全ヤンキー
「“蓄光テープ”のことや。暗い中で、舞台上から落ちたり、セットにぶつかったりせえへんように、目印になる小さなテープが貼ってあるんやで(ヒソヒソ)」
カサハラ
「なるほど・・それがあれば安心ですね(ヒソヒソ)」
完全ヤンキー
「俺らに暗闇のシーンはないけど、本番中は舞台裏の明かりが落とされて結構暗くなるから、その時は俺らも蓄光テープの光を頼りにして歩くんやで~(ヒソヒソ)」
カサハラ
「そうなんですね・・!(ヒソヒソ)」
舞台監督
「では、照明さん!一度、暗転をお願いします!」
その瞬間、客席を含め
舞台上のすべての光が落とされ・・・
完全な真っ暗闇となった。