「では、稽古を再開します。」
演出家がスタジオに続く階段を
下りながらそう言った。
容疑者役と代役の計8人は、
同じように両手に手錠、
目にはアイマスクをつけられて・・
並べられたパイプ椅子にそれぞれ腰を下ろした。
アイマスクをつけていても、
稽古場の灯りが点いていると
まだ微かに明るさを感じ取ることができるが・・。
「では、電気を消してください。」
演出家がそう合図すると、
スタジオの電気は消灯。
そうなってしまえば、
目の前は“完全な暗闇”状態だ。
カサハラ
「(稽古だと分かっていても、何も見えない状況で両手の自由も効かないとなると、やっぱり緊張してくるな・・・)」
僕は一度深く息を吸い、大きく吐いた。
カサハラ
「(よし、頑張るぞ・・!)」
演出家
「皆さんは今、薬で眠らされて・・・」
いつもと同じように演出家が状況説明をする。
カサハラ
「(別に何度もやっている訳だから、もう説明する必要ないんじゃないかな・・?)」
僕は、ふとそう思いながらも、
アイマスクの中で目をつぶる。
演出家
「では、いきます。・・・パンっ!!!」
そして、この日2度目の
”冒頭のト書き”のシーンの稽古が始まった。