僕は焦って
みなさんのいる搬入口に向かった。
カサハラ
「おはようございます!すみません!集合時間聞き間違えちゃったみたいで、今来ました!本当にすみません!!」
すると・・
ヒノウエさん
「カサハラさん、オハヨウゴザイマス。来るの早いデスネ。他のキャストの皆さんは16時集合デスよ」
カサハラ
「え!?でも、みなさん、こんなに早く劇場に来て準備されてて・・」
ヒノウエさん
「アァ、今回の舞台はウチが主催なので、所属者はセットの”仕込み”をするんデス」
カサハラ
「所属者?仕込み?」
ヒノウエさん
「アァ、他のキャストのミナサンにはチャント説明してなかったかもシレマセンガ・・
僕タチは、あの演出家が代表を務める芸能事務所に所属する役者なんデス」
カサハラ
「え!?みなさん、そうなんですか!?」
その数は、およそ10人。
今回の舞台に出演するキャストの多数は、
あの演出家のもとに所属している役者さんだったのだ。
振り返ってみれば、
思い当たる節はあった。
とにかくみなさん
演出家の演技指導に対する理解と対応が素早く、
『(役者ってみんなこんなにポテンシャル高いモノなのか・・)』
と狼狽えた瞬間が多くあったのだ。
カサハラ
「ヒノウエさんはそうかなと思いましたけど・・・まさか、こんなにも多くの方が所属されてるとは気づきませんでした・・」
ヒノウエさん
「やはり演出家トシテモ、自分の意図を理解した役者を多く配役するコトデ、作品の世界観を上げたいという想いもアルノダト思いマス。アト・・」
カサハラ
「あと?」
ヒノウエさん
「ヤハリ、自分の手で育てた役者たちを、沢山舞台に立たせて”世に出るチャンスを与えたい”、ソウ言う想いもあると、ワタシは思いマス」
カサハラ
「チャンスを・・」
稽古場での
演出家とヒノウエさんのやり取り、様子。
あの時、僕が伺い知れた
”信頼感”そして、”羨ましさ”というものは
この演出家と”役者たち”の
固い繋がりが作り出したものだったのだ。
カサハラ
「なんか、凄いですね・・」
ヒノウエさん
「あ!スミマセン、まだ仕込みの途中なので、戻りマス!あ、仕込みと言うのは、劇場のセットを作ることデス~」
そう言うと、ヒノウエさんは
搬入口から劇場の中へと消えていった。