演出家
「では、これですべての稽古が終了となります。明日から小屋入りになりますが、キャストのみなさんは入り時間が遅めなので、それまでゆっくり休んで、明日劇場でお会いしましょう」
そういうと
演出家はスタジオの外へと消えていった。
そう、この瞬間・・
僕の役者人生における
”初めての稽古”は終了したのだ。
正直なところ・・
何が何だか全然分からないままの2週間だった。
朝起きて、稽古場に向かって、稽古をして、完全ヤンキーとご飯を食べて、帰って寝て、
朝起きて、稽古場に向かって・・・
2週間、本当にそれだけの繰り返し。
でも
その毎日が
新鮮であり、緊張の連続であり・・
新しいことにどんどん気づき
そして、苦悩し・・・
残ったのは
”不安”ただそれだけだった。
もちろん
初めて”舞台”に立つのだから
不安に駆られるのは当然だ。
でも、本当に不安なのは
役が・・・
この2週間悩みに悩んで
作り上げた”神谷椎太郎”という役が
ボヤっとした状態のままであること。
結局、演出家から与えられた
”セリフをしゃべる”チャンスも逃した。
稽古中に自然と”神谷椎太郎”の
言葉が口からでることはなかった。
それが、
僕の中で大きなショックであり・・・
「(僕だけが、この”作品の世界”に入れていないんじゃないか)」
そう思うことしか、できなかった。