「クソっ・・・ここで距離と時間をロスしてしまうのはかなり痛い・・・」
そう悔みながらも、
来た道を戻ること・・・十数分。
なんとか“大通り”に出ることができた。
それまでの狭い路地は、とても薄暗く・・
ガサゴソと物音が聞こえてくるぐらいでも
「え!?何!?誰かいるの!?」
と、ビビッて何度も振り返ってしまうほど・・
非情に不気味なものだった。
「なんか・・・これって、”冒頭のト書き”のシーンの稽古のときと似てる感覚だったな・・・・」
“冒頭のト書き”のシーンも
真っ暗闇の中、アイマスクを付けられ・・
何も見えない恐怖の中、
物音一つに身体を強張らせながらも・・
一筋の光を求めて必死になって
出口を見つけようとしていた。
「そっか、演技のヒントって・・こういう一コマに隠れているものなのかもしれないな・・・」
追い込まれた時こそ
普段味わえない感覚を知ることが出来る。
「今回に限らず、今のこの状況も、きっといつか何かの演技に役立てることができる日が来るかもしれない・・!」
演技のソレ
日々勉強ナリ。
そう思えると、
だんだんとポジティブな感情が湧き上がってきた。
「よし・・!まだ道のりは半分・・いや、少し戻ってきたことでさらに距離は伸びてしまったし・・遠回りすることで更に長い道のりになるかもしないけれど・・今この置かれている状況を、もっと楽しんでみよう・・・!」
苦難なときこそ・・・
エンターテイメントだ!
そう思いながら僕は、
大通りの”青い看板”を頼りに・・・
時には道を間違えながらも・・
自宅のある街へ向けて
しっかりと歩を進めていった。
手元の明かりは失ってしまったが
大通りは割と明るいこともあり・・・
引き続き、
台本をしっかりと読み込むことができた。
そして、次第に夜も明けはじめ、
なじみの街並みが広がってくるあたりでは
もう街灯の明かりも不要となり・・
そして、ついに・・
午前5時、自宅に到着。
「やっと着いた~!!!予定より1時間近く遅くなってしまったけど・・・なんか良い経験が出来た気がする・・」
その充実感にも似た感覚になりながら
僕は自室に入ると、倒れ込むように・・・
『稽古2日目の朝』を
迎えることとなったのだった。