「(な、何だこれは・・!?)」
僕は何も見えないステージ上に目を向ける。
確かに何も見えない。
しかし、そこで行われている
お芝居の様子はハッキリとわかる。
「(こ、これは、いつもの稽古場でのお芝居と同じ空気感、同じ熱量だ・・!!)」
そう。
真っ暗闇の
本当に何も見えない中でも
容疑者役の8人の演技は
まさに稽古中のそれと同じもの。
いや、お芝居の場が
稽古場から劇場に移ったからなのか
その8人が醸し出す
お芝居の”圧”と言うモノは、
今まで以上に感じることができる。
それは
ステージ上の確認作業である
”場当たり”とは、思えぬほどだ。
「(す、すごい・・・やっぱり劇場に入ると、役者のみなさんは一段とテンションが上がってくるものなのか!?)」
何も見えない
ステージ上で繰り広げられる
その全てを巻き込むような
白熱した芝居の掛け合いに
僕は完全に
“見惚れて”しまっていた。
そして・・・
容疑者役
「あった!」
容疑者役の1人が
そう声を出したのをきっかけに
「パチン」という
スイッチを押す”効果音”が入り
スッとステージ上の照明が灯る。
容疑者A
「こ、ここは一体・・・」
・
・
・
舞台監督
「ハイ!ここでストップします!」
舞台監督の声が
劇場内に再び響き渡った。
舞台監督
「まず、音響さん、照明さん、”スイッチ”のタイミングは問題なさそうでしょうか?」
音響さん・照明さん
「大丈夫で~す」
確かに問題なさそうであった。
というか・・
スイッチの押されるタイミングも
密室内が明るくなるタイミングもバッチリすぎて
本当に容疑者役の1人が自分で電気のスイッチを入れて
明かりが点いたものだと言われても何の違和感も抱かないほどだ。
「(さすが、プロフェッショナルだ・・・1回目でここまで絶妙に合わせてくるなんて・・)」
この現場は役者陣だけが
“プロフェッショナル”なのではない。
スタッフさん1人1人も間違いなく
その道の“プロフェッショナルの集団”なのだ。