『今日から、君の職業は、正式に”役者”だよ』
そう言われた、あの日から・・・
あの”只者ではない演出家”は、
カサハラ青年にとって”社長”となった。
そう、ついにカサハラ青年は念願の
”芸能事務所”に所属することが出来たのだ。
という訳で、
事務所からオーディションに送ってもらうための
”プロフィール用”の写真を、
完全ヤンキーの紹介で、
早速撮りに行くこととなったカサハラ青年だったが・・
「(え?ここが撮影スタジオなの!?)」
そう口から出かかった言葉を
ぐっと飲み込み・・・
”昔のカメラマンさん”
の後について階段を上り
アパートの2階の一室に
僕らは入って行った。
カサハラ
「お邪魔しま~す・・・」
部屋の中に入ってみると
いくつかの間接照明が灯っているだけで
そこが”撮影スタジオ”
という様子は一切ない。
たくさんの撮影機材が山積みになった
いかにも一人暮らしの男の部屋、という感じ。
間取りとしてはだいたい
1Kくらいのものだろうか・・
機材が床を埋め尽くしていて
もはや”ゼロK”にも思えてくる。
カサハラ
「(あ、もしかして・・・これから撮影スタジオに移動するのかな?)」
恐らく、そうであろう。
部屋の中には、
撮影できるスペースなど、猫の額ほどもなく・・
これから機材を持って
別に用意してある撮影スタジオに移動して・・
きっと撮影するのだろう。
それで、機材が多くて搬入が難しいから
僕も“荷物持ち要因”としてここに呼ばれたのであろう。
カサハラ
「(まったく知らない世界だし・・・個人でやってるカメラマンさんに撮ってもらう場合は、こういうのが当たり前なのかな?)」
そう思いながら・・
カサハラ
「どれを運べばいいですか?」
と“昔のカメラマンさん”に問いかけてみた。
すると・・
昔のカメラマンさん
「え?何を運ぶって?何も運ぶものなんてないよ?」
カサハラ
「え、でも、これから別の撮影スタジオに移動するんですよね?」
昔のカメラマンさん
「しないよ」
カサハラ
「え、でも・・この部屋の中に、撮影できる場所ないですよね?」
昔のカメラマンさん
「ううん、ここで撮影するんだよ」